Per Henrik Wallin Trio / Blues Work (Dragon) '82

Per Henrik Wallin(p) Torbjorn Hultcrants(b) Erik Dahlback(dr)

Lars GullinにStaffan Abeleen。計3作のアナログ・リイシューでいよいよスウェディッシュ・ジャズの時代が到来か、なんてこそこそ思ってたりもしてたんですが、スウェーデンといえばDragonやCapriceなど、70年代から続く息の長いレーベルがしっかりと土地に根付いている、なんて印象があります(50年代の初めからアメリカのトップ・プレイヤーが来訪していたという歴史もあるようです)。このPer Henrik Wallinも75年の処女作からこの2つのレーベルに多くの作品を残している、未だ現役のピアニストです。というわけでDragonからのトリオ作品。Dragonのジャケットは、中心に置かれた写真を深い色で縁取る、単色刷りの、ヨーロッパらしい端正なものが多く、Blue NoteやPrestigeに残された、聞き古され堂に入った名盤たちともまた違う据わりがあります。なのでジャケットはどうしても紹介したかったんですが、見つからなかったので動画を。近年のライヴながら、老兵未だ死なず、欧州特有の観念的なフリー・ジャズを見せ付けてくれています。ヨーロッパという土壌でこそ、フリー・ジャズが最も結実することが可能だったと思うんですよね。ロフト・ジャズの行き着く先はパンクやポスト・ロックだったし、スピリチュアルに至っては一過性のムーヴメントにしか成りえない脆弱なものだった。「フリー」という言葉の中にある、ジャズというフォーム/制度からの脱却、価値の崩壊、或いは偶然性といったコンセプトは、ヨーロッパに生まれた現代音楽/即興音楽と相互補完的に結びつくことで、最も徹底されたように思えるのです。その達成がINCUSであり、MEVであり、Nuova Consonanzaであり(再発されました!)、またPer Henrik Wallinであると。それにしてもなんと特異なピアノか。雷鳴轟く奔放苛烈なインター・プレイが印象にこそ残りますが、陰りを帯びたシニカルなスウィング感も持ち合わせている。僕はそこにモンクの影を追ってしまいます。ドライヴするベースや重厚なドラムに肩を借り、千鳥足で蹴躓きながら踊る姿は正にモンク。突発的に跳ね上がるフレーズや不協和音の連打も、その影を一層鮮明なものにさせます。この時代のジャズのレコードって、録音が、なんと言うか、フュージョンぽくて馴染めないことが多いんですが、それも無し。最後に、レーベル・オーナーであり、この盤のプロデューサーでもあるLars Westinという人物が、ジャズ後進国であったヨーロッパに大きく献身したということも、付け加えておきます。